ロロノア家の人々

    “クリスマスならずとも…”
 


イーストブルーの結構大きな陸の奥向き。
山麓の取っ掛かりという山野辺に位置していて、
夏は稲穂を初めとする緑に覆われ、冬は随分な大雪に覆われもする。
それが原因ではないけれど、
里に長年住む人ほど、
外の世界に関しては誰かから聞いた話でしか知らず。
特に贅沢をしたいとも思わぬまま、
長閑なこの里で一生を終えたいとする人ばかりの、
小さいが穏やかな、暮らしやすい土地であり。
そんなこんなだけを並べると確かに片田舎ではあるけれど、
何から何まで和風という里じゃあない。
瓦の乗った切り妻屋根のお家が多いが、
住まわる人らはといや、動きやすいからと日頃の普段着は洋装だし。
馬に頑張ってもらう荷車も現役だが、
トラックや乗用車など、原動機で動く乗り物もあるし。
明かりや電信も通じており、よほどに凝った代物でない限り、
生活家電製品だって普及している。

  そしてそして、西の世界の宗教や風習も、
  単なる知識以上に馴染みもて、人々の間には広まっており。

 「クリスマスって、
  キリストっていう偉い人が生まれた日なんでしょう?」
 「ああ、そうらしいな。」

まだまだ大人との会話には
お顔をうんと持ち上げなければならぬほどの おちびさんたち。
台所のがっしりとした配膳台の天板に、
ぶら下がり半分しがみつくようになって。
ルフィお母さんやツタさん、お手伝いさんによる
“お支度”の手際を、ドキドキわくわくと見物しておいで。
ウサギさんのアップリケのついた、
サロペット風、胸当てつきスカート姿のみおちゃんは、
そろそろ日頃のご飯のお支度も大きに関心ありな様子じゃああるが、

 「何やって偉い人なんだろ?」

と、素朴な疑問へ小首を傾げる長男坊の方は、
そこは男の子だ、
お祭りだのお誕生日だのの特別な“お支度”への
さわさわっとしたざわめきが招く
ワクワクこそがお好きなようであり。
まだまだ小麦粉とか卵とかいう原材料の段階では、
作業中のブツへもあまり関心は向いてないようで。
どっちかといや、
“手が空いたら遊ぼうよ”とお母さんに甘えに来たようなもの。
今も“なあなあ”と、
テーブルからお母さんの腕へと手を移し、
お揃いのセーターなのが混ざり合うよに見えるほど、
ぎゅうぎゅう引っ付いている始末であり。
利かん気なお顔して、
実はそんな甘えたさんを楽しそうに見下ろし、
さてなぁと。
慌てもせずに“知らない”と、それは率直に応じたおっ母様。

 「でも、世界中の人たちが誕生日を知ってるほどだから、
  さぞや大層なことをしたんだろな。」

 「そーだねぇ。」
 「うん、きっとそうなんだ。」

さらさらした黒髪に、
滲み出してきそうな黒みの潤みも愛らしい、
くりくりしたお眸々のみおちゃんも。
お父さんとお揃いの、
緑のいが栗頭も 腕白そうなお顔にはお似合いの、
お母さん好き好きな長男坊も。
豪気なお母さんの言うことへは
諸手を挙げての“そのとーりっ”となるのが
当家のデフォルトならしく。

 「そいで皆で“おめでとー”ってお祝いして、
  美味しーケーキ食べるんだよねvv」
 「そうそうvv」

いや、そこは“そうそう”じゃなかろうがと、
たまたま表から入って来て通りすがったらしき師範殿が、
内心で“おっとっと”と コケかけておられたようですが。
(笑)




      ◇◇◇



確かに、世界中の人々が御存知の神様の和子には
どちらさんもまず敵いはしないが。
それでも、あのね?
心からの慕わしさではもしかすると負けてないかもとする、
そりゃあそりゃあ大事な人って、誰にだっているもので。


 「…?
  パパ、ママ、どうしてケーキいっぱいあるの?」

偉大な航路、グランドラインのとある一角に浮かぶは、
ウッドデッキ風のアプローチが船着き場をかねて周囲を囲う、
なかなかにしゃれた外観の、
『バラティエU』という浮き島レストラン。
降誕祭という聖なる日は、
本来ならば、家族で厳粛に和やかに過ごすものな筈なのだけれど。
実家には戻れぬ身の忙しい盛りの方々や、
はたまた、
将来家族になってほしいお人を射落としたいとする野心家の方々が、
そのドラマの舞台にしたくてか、
今年の聖夜も予約がたんと入っておいでと聞いていたのに。
そちらの支度で忙しい父上の姿は確かには見えないが、
家族専用、プライベートエリアのキッチンの、
シックなデザインのテーブルの上には。
生クリームにティラミスに、フルーツタルト、
チョコレートガナッシュでコーティングされたオペラに、
紅茶シフォン…という、様々な品揃えのケーキが1ホールずつ。
どういう冗談か、家族の頭数以上に並べられてあり。

 「お客様、来るの?」

お店へのじゃなくてと、省略して訊いているお嬢ちゃまだというのは、
いまだ うら若きマダム・ナミにもきちんと届き。

 「そうねぇ、来るってワケじゃあないけれど。」

それでもね、
お招き出来るものならこちらへ呼びたい、
そりゃあ大切で大好きな人がいるものだからと。
みかん色のつややかな髪をセンスよくまとめ、
ブルー基調のあか抜けたスーツをまとった、まだまだお若いお母様。
パパ譲りの青い双眸をぱちくりと瞬かせる
小さなレディをひょいと抱き上げると、

 「ああ、これも好きだったな、あれも気に入ってたな、
  今年はやりのこれなんて、田舎じゃ食べられなかろうななんて、
  思い出す限りのケーキをね、
  気が済むまでって朝からずっと作ってたパパなのよね。」

 「その、大切な人のため?」

半分は自分のストレス解消って勢いだったけどと、
客商売のおまけみたいなものに
まだまだ振り回されてる伴侶なことへの苦笑を見せたナミさんで。

 “まま、余裕っちゃ余裕よね。”

そろそろほとぼりも冷めたかなと、
自慢のシフォンケーキのレシピを送ったところ、
何年もかかって届いたらしき先様から、

  ―― 俺たちは元気だっ

との返信が折り返しで届いたものだから、あまりに嬉しくて嬉しくて。
あとの仲間たちへも、
トビウオ経由でその報せをパパパッと伝えて回ったのが先日のこと。

 “このっくらいは許されるよね。”

するとすると、
片田舎になんぞ収まっていられるのかなと案じる狙撃手さんや、
消化剤だけは要らなかったなあいつらと、
今になって気づいたらしい名医さんから綴られたお便りがすぐさま届き。
相変わらずメカ好きなんだろか、
音楽もお好きなんでしょかと、それぞれ一筆のあるカードは、
二ツ折を開くと、
片やは ぱたくたと素早くヤシの木のメタルアートが勝手に組み上がり、
片やはオルゴールがどっかで聞いた懐かしい歌を奏でる仕掛けつき。
謎めきの考古学者さんは、
トレジャーハンターみたいな依頼を受けるたび、
こちらのお店へも寄り道だと言って立ち寄ってくれており。
先触れのブーケが届いていたので、
今宵も運んでくれると ナミにだけは判っていたりし。


  皆みんな、あの破天荒船長に魅了されて集った仲間。
  それぞれが秘めてた大きな大きな夢を、
  斜に構えて夢で終わらせることなく、
  頑張って叶えるぞと 真っ向から意気込んでもいいんだって、
  そんな勇気と奮起をくれた彼だったから。

 「ねえねえ、ママ。じゃあ、その人はお店へ来ないの?」

大切で大好きな人なら、逢いたいよね?
小さなベルちゃんが、無邪気なお声で ねえねえと問うのへ、
うふふと微笑った 元・航海士さん。
かわいいお嬢さんの頭越し、
壁に張られた大きな大きな世界地図を眺めやり、


  そりゃあ逢いたいけれど、
  けどでも、あのね? 逢えなくたって大丈夫なのよ?


仲間ってのはそういうもの。
何もずっとずっと
片時も離れないでいなきゃあ いられないのが仲間じゃあない。
そうなんだってことは、冒険の途中で何度か思い知りもしたもの、と。
ちょっと難しいことを言うお母様へは、

 「???」

まだちょっと理屈が追いつけぬか
キョトンとするばかりなお嬢ちゃまだったけれど。
10年も経たずに、
同じような冒険仲間と出会うことになってしまうから、
さても奇縁とは面白い。


  そんな未来も含め、皆みんな、幸せにありますように……

  
MERRY MERRY CHRISTMAS!!




   〜どさくさ・どっとはらい〜  11.12.24.


  *原作のお話が進んで来て判ったこと…といいますか。
   勝手気ままに書き散らかして来た
   その通りには いかなかった“未来図”が幾つかポロポロと。
   後半の航路へは深海を経由せにゃならんこととか、
   メリー号とのお別れとか、エースさんの悲劇とか、
   数え上げればキリがないのですが。
   このシリーズにおける“そりゃないぜ”といえば、

   恐らくのきっと、
   オールブルーは新世界側にあるんだろうなということ。

   となると、
   そこに海上レストランを構えた
   サンジさんとナミさんというウチの設定は、
   色々と矛盾だらけとなってしまうんですな。
   とほほ…と嘆いても始まらないので、
   ここはひとつ、大目に見ていただくということで。(う〜ん)

めるふぉ 置きましたvv めーるふぉーむvv

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